「人工甘味料は太る」は嘘?最新研究でわかった脳と体の本当の反応とは
「人工甘味料はむしろ太る!」みたいな話は、いまもよく耳にするところです。実際には、「人工甘味料は普通に痩せる」ってデータの方が多いので、個人的にはあんま信じてない考え方なんですが、今もネット上では以下のような主張を見かけるかと思います。
- 「人工甘味料は脳を騙して食欲を暴走させる」
- 「甘さを感じたのに糖が入ってこないことで、脳が混乱してドカ食いに走る」
どちらも理屈としては、それっぽい気もしまして、たとえば脳の立場になって想像してみましょう。すると、こんなシナリオが予測されるはずであります。
- 人工甘味料を摂取する
- 脳が「あれ?甘さを感じたけど……糖が来ないぞ!?」とパニックを起こす
「じゃあ甘いもの探さねば!」と脳が命令を出し、結果としてアイスやお菓子を探しに行ってしまう。
舌から「甘い」ってシグナルを送られた「脳」が、実際にはカロリーを取り込めずにとまどい、そのせいで本当の甘味を欲しくなってしまうって考え方ですな。
実によくできたストーリーではありますが、実際のところはどうなのかってことで、この話を脳活動レベルでガチ検証した研究(R)が出ておりました。被験者は75人でMRIまで使ってまして、この手の実験としてはかなり大規模なんじゃないかと思うわけです。
では、さっそく中身を見ていきましょう。実験では、以下の3種類の飲み物をランダムに飲んでもらい、脳と体の反応を比較しております。
- 水(カロリーなし)
- 砂糖入りドリンク(75gのスクロース入り)
- 人工甘味料入りドリンク(スクラロース使用、甘さは砂糖と同等)
でもって、その後に脳の血流(特に視床下部)、血糖・インスリン・GLP-1の変化、主観的な空腹感といった指標を測定したら、こんな結論になりました。
- 人工甘味料は脳活動を少しだけ上げた!:スクラロースを飲んだ後、みんな視床下部の血流がやや増加した。ただし、その差はごくわずかで、グラフ上でもほとんど差が見えないレベル。つまり、「脳がびっくりして暴走!」みたいな劇的な反応はなかった。
- 空腹感はほぼ水と同じ:砂糖入りドリンクは空腹感を抑える方向に働いた(まあ糖が入っているので当然でしょう)。一方で、スクラロースと水では、空腹感に有意な差は無かった。
ということで、この結果を見てみると、人工甘味料による脳の暴走説は裏づけられなかったようでして、少なくとも短期的には「人工甘味料を飲むとドカ食いしたくなる」って考え方は支持されなさそうっすね。我が身を振り返っても、ゼロカロリーのサイダーとかを飲んだ後に「うわー!何か食べたい!」みたいな気分になったことはないので、ここらへんは体感とも一致するところっすね。
ただし、「短期の反応が大したことがないと言っても、長期的な影響はわからない!」って意見もあるでしょうから、いちおう別のデータもチェックしときましょう。これについては、すでに17のRCTをまとめた2022年のメタ分析(R)がありまして、これが実に参考になります。
こちらの分析結果はというと、
- 人工甘味料入り飲料を飲んだ人は、砂糖入りを飲んだ人よりも体重が約1kg減少。体脂肪率も0.6%減り、BMI、肝脂肪なども改善した。
- 水との比較では「中立」または「やや良い効果」ぐらいの評価だった。
みたいになります。つまり、長期的に見ても人工甘味料が体重を増やすって証拠はほぼないどころか、むしろちょっと減るっぽいというのが結論っすね。とりあえず人工甘味料は水と同じようなもんだと考えとけば良さそうっすね(少なくとも体重の増減に関しては)。
にも関わらず、人工甘味料が「ダイエットに逆効果」って説が根強いのは、おそらく以下のような要因があるからではないかと。
- 「甘いのにゼロカロリーなんておかしい!」みたいな直感的な違和感が強い
- 観察研究とかだと、「人工甘味料をよく摂取する人は肥満が多い!」って傾向が確認されることも多い
- 「脳がダマされて暴走する!」ってストーリーに妙な説得力がある(というか、私も「あり得るなー」と思ってましたし)
- SNSやメディアでは「人工甘味料が毒だ!」ってニュースがことさら大きく扱われることが多い
が、現時点の研究を見てみると、これらの要因については「危険よりもメリットの方が大きそう」というのが妥当な見方でしょうな。
ってことで話をまとめると、
- ダイエット中は、人工甘味料入り飲料は「水と同じくらい安全」である:短期的にも長期的にも、大きな害は見当たらないし、砂糖の代替としてはメリットが大きい。
- 「甘さのバランス」が鍵になるかも:人間の食事ってのは、あまりに粗食すぎて味気ないものが続くと、脳が美味いものを求めて暴走する可能性はある。なので、要所要所で人工甘味料を投入して、脳が暴走しないように手なづけるのはアリ。
- 「人工甘味料=悪」の思い込みには注意:科学的なデータを見れば、微妙な差ではあるもののリスクよりリターンが勝っているので、特定の成分に過剰な警戒をしすぎると、せっかくのメリットを逃しちゃうかも。
ということで今回は人工甘味料をめぐる脳の反応についてのお話でした。ダイエット中に「どうしても甘いものが飲みたい!」って時には、炭酸水+人工甘味料のゼロカロリードリンクは悪くない選択肢だと思いますし、プロテインパウダーに人工甘味料が入ってても別に恐れずに使っていただければと思うわけです。