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記憶力を鍛えて脳機能をガッツリ底上げだ!脳を最適化する記憶トレーニングの科学

 

「最近、人の名前が覚えられない……」

「本を読んでも内容が頭に残らない……」

 

みたいな悩みは定番で、私も50代を目前にして、いよいよ人名などが覚えられなくなっております。

 

が、意外と世間では「記憶力」ってなめられがちな気がするわけです。みんな「コミュ力!」とか「論理思考!」とか「発想力!」みたいな能力はよく話題にするわりに、記憶力はそこまで言われませんからね。まあ今ではスマホがすべてを覚えてくれるので、「わざわざ自分が情報を覚えておく必要はないよねー」ってのが時代の気分なのかもしれません。

 

が、このたびアメリカ国防総省の分析官が行った研究(R)は、あらためて「記憶力」の大事さを強調してくれてまして、非常にためになりました。

 

この実験は30人の情報分析官を対象にしたもので、全体を2つのグループに分けまして、

 

  1. 一方には「記憶トレーニング」を実施
  2. もう一方は何もせずに、記憶タスクに挑戦

 

って感じで、みんなに「人名+行動」などの情報を覚えてもらい、直後と1週間後に記憶力をチェックしたんだそうな。すると、記憶トレーニングを行ったグループは、

 

  • 即時記憶が45%アップ
  • 1週間後の記憶力も57%向上
  • パーフェクトスコア(完全記憶)を達成した人は5倍

 

って感じで、驚くレベルの違いが出たらしい。しかも、おもしろいことに「分析経験の長さ」や「高学歴」は成績にまったく関係せず、「記憶テクニックをちゃんと使えたか?」の影響がめっちゃ大きかったらしいんですな。つまり、記憶力ってのは生まれつきの才能よりも、純粋なスキルの問題なんじゃないか、と。

 

ただ、個人的にもっと面白かったのが、記憶トレーニングを受けたグループは、

 

  • 記憶が強化された分析官ほど、パターン認識や仮説構築の精度も上がった。

 

と報告されてるところです。記憶力が上がったことにより、たんに物事を覚えられるようになっただけでなく、「判断力」や「発想力」まで強化されたらしいんですな。

 

このような現象が起きるのは、おそらく記憶が強化されたことにより、

 

  • 情報検索に時間を取られず、本質的な分析に集中できるようになった
  • データを頭の中で組み合わせ、新しいアイデアを生み出しやすくなった
  • プレッシャー下でも判断ミスを起こしにくくなった

 

といった効果が生まれたのだろうと思うわけです。記憶力の向上によって、上位スキルの土台が整ったわけですな。まあ、ここらへんは逸話的な証拠でしかないのでデータの質は低いんですが、こうしてみると記憶力って超ベーシックな能力なのかもですなぁ。

 

ちなみに、ここで使われた記憶トレーニングは、メモリーパレス法、エラボラティブエンコーディング、数字記憶のメジャーシステムの3つで、中でも特に効果が高かったのが「メモリーパレス(記憶の宮殿)法」だったそうです。この手法については過去に何度も取り上げてまして、

 

 

あたりをご参照ください。これは記憶術の王道と呼ばれる手法で、情報を「場所」と結びつけて記憶するやり方っすね。基本ステップは3つで、

 

  1. 知っている場所を選ぶ(例:自宅の間取り)
  2. 場所ごとに情報を配置する(玄関=買い物リストの1番目、洗面所=2番目…)
  3. 脳内でその場所を歩きながら、情報を取り出す

 

みたいになります。人間の脳は空間記憶に非常に強く、場所とセットにした情報は忘れにくくなるんですな。

 

こいつは非常に応用が効く方法で、たとえば「スピーチの構成を覚えたい!」ってときでも、

 

  • 玄関→挨拶と自己紹介
  • リビング→メインテーマの提示
  • キッチン→データと事例
  • 寝室→結論と呼びかけ

 

って感じで構成を「部屋」に割り振っておくと、本番でスラスラ話せるようになるんですな。これは私もよく使ってるやり方です。

 

この実験では、他にも数字を音と絵に変換する「メジャーシステム」や、情報に感情やイメージを加える「エラボラティブエンコーディング」も組み合わせてますが、長くなるのでここらへんのテクニックは割愛。とりあえず「メモリーパレス」が最強らしいので、まずはこれに習熟することに専念するのが良さそうであります。

 

この結果について研究者いわく、

 

記憶力の訓練こそ、知的職業人にとって最も費用対効果の高い投資である。

 

とのことでして、「たしかにそうかもなー」とか思った次第です。論理思考や創造力などと比べて確実に鍛えられるし、それによって得られるメリットも大きいですからねぇ。

 

ということで、今回の話をまとめると、

 

  • 記憶力は生まれつきではなく、「訓練で伸ばせるスキル」
  • メモリーパレス法など、古くてシンプルな技術が最も強力
  • 記憶力が向上すると、「判断力」「発想力」まで強化される

 

って結論っすね。記憶力が誰にでも改善できる能力であり、その他の思考力の土台になってくれるってのは、なかなか希望の持てる話ではないでしょうか。私もあらためてメモリーパレスを意識するかーって感じです。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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