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PUMAから出たスーパーシューズの性能評価が地味にすごい件

 

ナイキ「ヴェイパーフライ4%」がランニング界に革命を起こしたのが2017年のこと。「走行効率を4%改善するぞ!」って売り文句で登場したシューズで、実際に実験(R)でも効果が裏づけられまして、マラソン界に記録ラッシュを巻き起こした凄いヤツなんですな。

 

で、あれから7年が経ちまして、今度はPUMAがおもしろいシューズを出したんですよ。その名も「PUMA Fast-R Nitro Elite 3」ってやつで、メーカーいわく「市場にあるどんな靴より3.5%効率がいい!」と、かなり強気な主張をしてるんですな。うーん、すごい。

 

もちろん、この発言には根拠がありまして、ナイキ「ヴェイパーフライ4%」の効果測定を行ったことで知られるマサチューセッツ大学アマースト校のウォーター・ホークマー先生が、具体的に機能をチェックしてるんですよ(R)。これは期待が高まりますなぁ。

 

このテストは、エリートランナー15人を対象に行われたもので、5kmを男性19分・女性21分以内で走る人だけを集めたらしい。たしかにエリートっすね。

 

実験では、各ランナーに4種類のシューズを履いてもらい、トレッドミル上で酸素消費量を測定してます。つまり「どれだけ効率よく走れるか?」をガチで計測したわけですな。比較の対象は以下の4足であります。

 

  • ナイキ「アルファフライ3」(現男子マラソンで世界記録を出した選手が履いてた靴)
  • PUMA「Fast-R2」(前モデル)
  • PUMA「Fast-R3」(新作)

 

その結果、どんな傾向が見られたかと言いますと、

 

  • Fast-R3が全員において最も効率的だった

  • ナイキより3.6%エネルギー消費が少ない

  • アディダスより3.5%エネルギー消費が少ない

  • 旧モデルFast-R2よりも3.2%改善

 

だったそうです。しかも、これまでのスーパーシューズ研究では「効果の個人差」が大きかったのに対し、今回は15人全員がFast-R3でベストパフォーマンスという異例の結果だったんですな。うーん、こりゃ凄い。

 

「じゃあFast-R3って、何がそんなに違うの?」ってとこが気になりますが、その答えをひとことでまとめると、

 

  • 全部ちょっとずつ違う!

 

みたいになります。というのも、PUMAの開発チームは、前作Fast-R2のバーチャルモデルを作成したうえで、「どの部位がどれだけ力を受けているか」「どの部分が無駄に重いか」などを解析して、いろんな無駄をちょっとずつそぎ落として"マイクロ最適化"を繰り返したんだそうな。なんか画期的な発明があったわけじゃなくて、チリツモを重ねまくった結果、靴の重量を249g→167g(▲33%)まで削減できたらしい。これだけで理論上、ランニング効率は0.8%向上するそうで、これも見事なもんですな。

 

さらに、Fast-R3ではフォーム素材にも工夫がされてまして、従来のスーパーシューズで使われてたPEBA系素材に比べて、さらに反発性が高い「Nitro Eliteフォーム」(A-TPU)ってのを採用してるんですな。これ、エネルギーリターン率が90%超えらしく、ナイキやアディダスが85%台だったことを考えると、なかなかの数字でしょう。つまり、踏み込んだ力が無駄にならず、ガンガン前に跳ね返ってくるわけで、そりゃ効率も上がりますわな。

 

もちろん、この研究には注意点もありまして、

 

  • テスト人数が少ない(15人)
  • 研究費はPUMAから出ている(とはいえ独立検証なので、そこまで問題じゃないかも)
  • エリートランナーの層がナイキやアディダスより薄い

 

ってとこは気になるとこでしょう。このため、「Fast-R3がベストなシューズだ!」ってことにはならないかもしれません。が、カナダの有名なランナーも、Fast-R3を履いたトレーニングで「いつもより8マイルのテンポ走が1分短縮された」とコメントしてるんで、今後のレースで答えが出るんでしょうな。

 

実際、過去の流れを見ても、ナイキのヴェイパーフライも最初は「これ本当に効くの?」って感じでみんなから疑われてたんですよね。けど、使われるうちに着実に結果が出て、「あ、これガチだわ」って評価に変わっていったんで、PUMAも同じような変遷をたどるのかもしれません。まあ私はランナーじゃないので、この手のスーパーシューズは不要なんですけど、なんか普通に欲しくなってきました(笑。

 

ちなみに、いくら最新のスーパーシューズが凄いと言っても、必ずしもすべてのランナーにとって有益ってわけじゃないのでご注意ください。この手のシューズって、記録狙いのレースには最高なんだけど、普段のジョグとかケガ明けのリハビリには向かない場合もあるし、むやみに使いすぎるとフォームが崩れるリスクも報告されてますんで。最近では「レース用シューズ」と「練習用シューズ」を使い分けるのが当たり前になってきてますから、そのへんのバランスも考えて購入を決めていただければと。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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