運動は疲れてからが本番だ!パフォーマンスを決める“第4の能力”とは?
「疲労はすべての人間を臆病者にする」ってのはジョージ・S・パットン将軍の名言ですが、心身が疲れてると何もする気が起きないのは間違いないところ。戦場に限った話ではなく、どんな分野でも疲労に勝たねばならない場面ってのはありまして、そんなときに真に問われるのは「ストレスの中でどこまでやれるか?」という“粘り強さ”であります。
この「粘り強さ」について、最近ちょっと面白い概念が提案されまして。それが生理的レジリエンスってやつです。心理じゃなくて「身体のタフさ」を表す考え方で、これが持久力のある人とそうでない人の違いを説明するかもしれない……って話なんですよ。
この概念は、もともと「耐久性」と呼ばれていたもので、「長時間の運動中に、どれだけ生理的なパフォーマンスが崩れないか?」を示す指標だったんですな。たとえば、同じVO₂max(最大酸素摂取量)やランニングエコノミー(走行効率)を持つ2人がマラソンで大きく差をつける理由ってのは、この“粘り強さの違い”にあるんじゃないか、と。
というのも、過去の研究を見てますと、一般的にはクリティカルパワー(疲れずにずっと出し続けられる最大のパワー)ってのは、2時間の運動をした後で8〜11%落ちるのが一般的なんですが、人によっては1%しか下がらなかったり、逆に33%も落ちたりするらしいんですよ。つまり、同じような能力を持つように見える選手でも、「疲れてからの持ちこたえ方」がまったく違うってことです。これはかなり大きな差ですなぁ。
で、新しいレビュー論文(R)では、こうした「疲れてからの持ちこたえ方」を「生理的レジリエンス」として定義した上で、「持久系パフォーマンスの“第4の柱”に加えようぜ!」と提案しておられます。確かに、たんに身体能力だけを見ていたら、真のパフォーマンスはわからないですからね。
となると、「生理的レジリエンスはどうやって鍛えるべ?」ってのが気になりますが、こいつはまだ新しい考え方なので、明確なトレーニング法はわかっておりません。とはいえ、現時点ではいくつかの有望なヒントがありまして、研究チームは以下のような対策を有望視しておられます。
疲労が溜まってからペースを上げる練習をしてみよう
プロの耐久系アスリート、とくに東アフリカのランナーなどは、長年にわたって「疲労が溜まってからペースを上げる練習」を積み重ねてることが多く、これがレジリエンスの強化に効いている可能性が高いみたいなんですな。
こいつは名前のとおり、「疲れてから逆に頑張る!」ってやり方で、「身体がヘロヘロになった状態でも質を落とさずに体を動かす」って能力を鍛えるために行います。実際にどんなふうにやるのかと言いますと、以下のような感じです。
方法① ロングラン+ビルドアップ
- 練習全体で10〜30km走る(レベルに応じて調整)
- その際に、前半(例:5〜20km)は会話できる程度のゆっくりペースで行う
- 後半(ラスト5〜10km)はマラソンペースかそれ以上のペースで走る
この手法のポイントは、「最初は楽でも、後半に地獄がくる」構成でトレーニングをすることです。心拍数が高まっている状態でペースを上げることにより、動きを崩さず走る技術とメンタルの両方が鍛えられるわけっすね。
方法② 疲労蓄積後のインターバル
- まず、90〜120分程度のゾーン2(ややキツめの有酸素)走を行う
- その後、1km×4〜6本のインターバル(マラソンペースより速い強度)を追加
- 200〜400mジョグでリカバリー
このトレーニングは、筋グリコーゲンが減っている状態でもスピードを出せるようにするのが目的。心身が疲れるとフォームが乱れがちになりますが、そんな状況でも「動作精度」を保つ練習になるんですな。
方法③ ファステッド・ビルドラン
- 朝、朝食前に10〜25km走る
- その際に、前半はゾーン1〜2で走り、後半はマラソンペースに近づけていく
こちらは、空腹状態での脂肪代謝能力を上げて、グリコーゲンが空になった状態で持久性を上げるために行います。暑い季節に行えば、熱に慣れる効果も期待できて良さげっすね。
ということで、文字で読むだけでも辛そうなトレーニングばかりですが、それだけにちゃんと実践したら効果は出るでしょうな。個人的にやるかと言われれば迷うところですけど、将来トレランの大会に参加する時に備えて、「ロングラン+ビルドアップ」はやってみようかなぁ……という気はしております。
ちなみに、ガチで「生理的レジリエンス」を強化したい方は、おそらく脂肪代謝を改善するのがベストだと思われるので、「疲労蓄積後のインターバル」をお試しいただくと良さそうな気がします。また、それと同時に、筋トレもやっておくのがおすすめで、3時間の中強度運動のあとで5分間のタイムトライアルをやった試験では、筋トレを並行して行っていたグループのほうがパフォーマンスが高かったってデータがあるんですよ。筋トレが良い理由としては、疲労時のタイプII筋線維の使用を遅らせたり、動作フォームの安定性を保つのがうまくなったり、といった生理的変化が役に立つのだと考えられております。ガチ勢は筋トレも必須ですな。
で、さらに余談で完全に仮説レベルの話になりますが、「生理的レジリエンス」は筋トレにも応用できそうな気がしております。たとえば、
- クロスフィットみたいな高強度・高頻度の競技
- ストロングマンのように短時間で何度も限界に挑む種目
などでは、「疲労の中でもパフォーマンスを保てるか?」が勝負の分かれ目になるんで、つまり「筋トレ版のレジリエンス」を鍛えるのが重要なのでは?って考え方ですな。また、ボディメイクの文脈でも、「どれだけ質を落とさずにボリュームを稼げるか?」は重要になるんで、ある種のレジリエンスがボトルネックになっている可能性は否定できません。その意味でも、疲労が蓄積した状態でちょっとだけ筋トレのボリュームを増やしてみるってのはありなんじゃないかと。
ってことで、タフな体を作るためには、単にフィットネスを鍛えるためじゃダメで、疲労にどこまで耐えられるか?って“耐性”をつけるのも大事だよーってお話でした。いまのところ、この能力を鍛えるための確実な方法は少ないですが、「疲労が溜まってからペースを上げる練習」と筋トレの併用によって、レジリエンスを少しずつ高められそうな気がしております。もちろん、ここらへんは心の粘り強さとセットで考えるのが大事なんで、そのへんもふくめて鍛えていただくのが良さそうであります。どうぞよしなに。