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知らない人とも一気に仲良くなる2分間──“共有瞑想”の科学

 
 

「人とのつながりは大事だ!」なんて話は、もう死ぬほど書いてまして、孤独はタバコや肥満よりも死亡リスクが高いなんて研究すらあるわけです。逆に親密な人間関係は幸福度を底上げするだけでなく、免疫力やストレス耐性まで強化する傾向がありまして、「社会的なつながり」が人間の健康に欠かせない要素なのは言うまでもないんすよ。

 

とはいえ、「じゃあ具体的にどうすれば“つながり”は生まれるの?」ってポイントになると、まだ明確な答えがないのが難しいところ。友達づくりのハウツー本を読んでも、「笑顔を大切に!」とか「相手の話をよく聞こう!」とか、わりと抽象的でフワッとしたアドバイスが多いんで、「もっと具体的な方法はないかなー」とか思っちゃう人も少なくないでしょう。

 

そこで、最近発表された研究(R)は、「たった2分間の“共有瞑想”で他人と親密になれるよー」と報告していて面白かったです。

 

これはペンシルベニア大学の心理学者チームが行った実験で、以下の2本立てで行われております。

 

  • 実験①:Zoomで知らない人と仲よくなろう!
    • 参加者:55人(平均24歳)
    • 方法:Zoom上で知らない人同士をペアにして、2つのグループにわける。
    • グループ1:2分間、黙って相手を見つめ合う
    • グループ2:2分間、“Just-Like-Me(JLM)瞑想”を行う

 

  • 実験②:今度は対面で
    • 参加者:98人(平均21歳)
    • 実験1と似たような手順を行うが、グループのわけ方を変える。
    • グループ1:ひとり瞑想(呼吸に集中するだけ)
    • グループ2:JLMのフレーズを強化

 

ということで、この研究では“Just-Like-Me(JLM)瞑想”という手法を採用したのが新味になっております。この手法がどんなもんかと言いますと、仲良くなりたい相手を見ながら、心の中で以下のようなフレーズを唱える、というものです。

 

  • 「この人も、私と同じように悲しみや孤独を経験してきた」
  • 「この人も、私と同じように喜びや感謝を味わったことがある」
  • 「この人も、自分は無価値だと感じたことがある」
  • 「この人も、愛されたいと願っている」

 

こういったフレーズで「相手も私と同じような人間なのだ!」って事実を再確認し、それによって親密感を高めていくわけですね。「慈悲の瞑想」をお互いにやり合うイメージと申しますか。

 

で、実験の結果がどうだったかと言いますと、結果は以下のようになります。

 

  • お互いに見つめ合っただけのグループも、後で「親密さ」「温かさ」「好意度」は上がった
  • しかし、JLM瞑想はさらに強烈な効果を発揮し、相手がこちらに感じる「魅力度」まで上昇した(外見が特別に良くなくても関係なしに)
  • ついでに、心拍数までシンクロし、笑顔のタイミングもピタッと合いやすくなった

 

どうもJLMの効果は予想以上だったようで、単にお互いの印象を高めただけじゃなくて、外見の魅力まで上がったってのがおもしろいですね。

 

しかも、興味深いことに、元々あまり“好印象じゃなかった相手”にほどJLMの効果は大きかったそうで、つまり「この人ちょっととっつきにくいな…」と感じる相手ほど、JLMによってグッと距離を縮められる可能性が高いってことでして、これもナイスな機能ですねぇ。

 

JLM瞑想が効く理由は簡単で、これによって「相手を“人間として見る”こと」ができるようになるからです。「この人も痛みを感じてきたんだなー」「この人も愛されたいと願っているんだなー」ってのを思い出すことで、自然と共感や思いやりが湧いてくるわけですな。逆に、人間の脳ってのは、気を抜くと知らない相手を「人間」として扱うのをやめてしまう傾向がありまして、この機能が働くと、共感はスパッと切り落とされちゃう傾向があるんですよ。

 

実際、似たような研究は数多くありまして、

 

  • セラピストとクライアントの脳波がシンクロすると、治療効果が高まる
  • ダンスや合唱のような「身体を合わせる活動」で、仲間意識が一気に高まる

 

みたいな報告がありますからね。これらを総合すると、「心と体の同調」が人間関係を深める鍵だと考えられるんですな。これはなかなか使えそうな手法じゃないでしょうか。

 

まあ、この実験をそのまま再現しようと思ったら、「いやいや、知らない人と2分も見つめ合ってられるか!」って話になりますんで、JLMの要点をアレンジして日常に組み込んでみるといいかもですね。たとえば、

 

  • 嫌な相手とコミュニケーションを取らなければいけない場合、その前に心の中で「この人も不安を抱えているんだろうな」「この人も評価されたいと願っているんだろうな」と、ちょっとだけ唱えてみる。

 

  • パートナーとのケンカ中は、「なんで理解してくれないんだ!」と怒りが爆発しやすいので、そんな時は相手を見ながら「この人も愛されたいんだ」「この人も傷ついているんだ」などと心の中で唱えてみる。

 

  • 会話の中で沈黙が気まずいと思ったら、「JLMモード」で相手を見てみるように心がける。

 

みたいな感じであります。個人的には、こういった介入は社会的な分断にも使えそうな気がしてまして、見知らぬ人への共感を増したり、他文化の人との距離を縮めたりみたいな効果も得られそうな気がしております。政治的な立場がまったく違う人と話す前に「この人も孤独を感じてきたんだ」と思うだけで、会話のトーンはだいぶ違ってくるはずですからね。

 

ってことで、誰か嫌な相手と話をする時ほど、JLM瞑想を取り入れてみると良いかもしれません。お試しをー。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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