たんに仕事の能力が低いだけでも「忙しいアピール」には効果がある
「忙しいアピール」って言葉がありますわな。 「忙しい!」と周囲に触れ回ることで、自分の有能さを示そうとする「間接自慢」の一種。
忙しいアピールを深掘りしてみた
要するにただの遠まわしな自慢なんですけど、ハーバード大学の研究者が出した論文(1)は、「忙しいアピール」について深掘りしてておもしろかったです。
私たちは、仕事の「忙しいアピール」が、他の人に対してどのような効果を持っているのかを調べた。
ってことで研究者は4つの実験が行っております。たとえば、ある実験では、参加者に対して2種類のフェイスブックを見せたんですね。
- 仕事の書き込みが多いアカウント
- バケーション系の話が多いアカウント
そのうえで全員に「この人たちをどう思うか?」を採点してもらったところ、すべての実験において、
- 仕事の量が多くて忙しそうな人ほど「地位が高い」と思われた!
- 研究者が「この人は仕事が遅いだけなんです」と教えた場合でも、参加者の考えは変わらなかった
って傾向がみられたんだそうな。「仕事が遅いだけ」とわかってても認知が変わらないってのがおもしろいですねぇ。
仕事が遅くて時間がないだけでも「偉い」と思われる
これらの実験でわかったのは、忙しくて遊ぶヒマもない人たちに対して、私たちはつい「地位が高い人なのだ」と思ってしまう傾向があるということだ。
つまり、もし有能な人がバリバリ働いて、余った時間でバケーションを楽しんでいたとしても、特に「地位が高い!」とは思われないってことですな。世の矛盾!
さらに、研究者は別の実験も行ってまして、こちらでは450人を対象に「オンラインショップの利用度とステータス」を調べております。具体的には、ホールフーズのようなオンラインストアで食料品を買う人と、普通に路面のスーパーを使う人を見せて、「どっちが地位が高いと思う?」と聞いたんですな。
結果は、思ったとおりオンラインストアの勝利。実際の店舗を使う比率が下がるほど、他人からは「地位が高い!」と思われたんだそうな。これはもちろん、「オンラインストアを使ってる=買い物に行く時間もない!」と解釈されるってことであります。
裕福さが「忙しいアピール」を生んだ
このような現象が起きる理由について研究者いわく、
現在の裕福な社会では、贅沢品が顕示消費のシグナルとしての価値を失っている。その代わりに、シグナルの対象になったのが時間の希少性だ。時間のなさを顕示消費に使えば、「自分は重要な人的資本だ」と暗に言えることになる。
とのこと。要するに、ちょっと前はブランド品が貴重だったから見せびらかしの種になったけど、みんなが持つようになった現代では価値が減少。その代わり、誰にとっても希少性が高い「時間」が、現代人にとっての新たな自慢の種になったんだ、と。ミニマリストや断捨離の影響力が高くなったのも、そのへんがあるんでしょうね。
その意味では、逆に「俺はムダなことに時間を消費しているぜ!」ってのもアピールのひとつなのかも。人的資本としてのアピールにはならないものの、希少性を自由に浪費できるオレってすごくない?みたいな。あと「丁寧に時間を使う」みたいな文化も、時間をシグナルに使ってるって意味では、そのひとつですかね。
「忙しいアピール」の今後
ただし、ここには注意点もありまして、研究者は「時間」の顕示消費を、次のように戒めております。
ステータスのシグナルが機能するには、顕示消費の対象が可視的でコストがかかる必要がある。みんなが使うようになれば「可視性」は低下していく。
みんなが時間を自慢の種に使うようになれば、当然ながら、その効果も下がっていくんだよーって話ですね。ファッションと同じですわな。
まぁ時間の希少性ってのは万人に同じなので、おそらく「忙しいアピール」も「時間をムダにするオレアピール」もしばらくは無くならないでしょうけどね。生産性に目を向けろ!と言われても難しいからなぁ。