「貧しさ」は人生をハードモードにするが、それは「考え方」である程度まで変えられる……かもという実験の話
貧しい家庭に生まれると、人生が不利になりやすいってのはよく聞く話し。なんとも不公平な話ではありますが、家族の所得が低い人ほど、後年になって心身の問題に苦しむ確率が高くなっちゃうみたいなんですよ。
その原因としては、当たり前ながら子供時代のリソース不足(栄養が足りないとか、満足な教育を受けられないとか)が考えられるわけですが、新しいデータ(R)は「貧困が悪い理由は他にあるかもよ?」という結論になっておりました。
これはイギリスのさまざまな地域で生まれた、1,000組以上の双子を対象にしたもの。全員を20年にわたって追跡した観察研究になっていて、親の教育、職業、収入に関する情報などを測定したところまでは他の研究と同じですが、ここで新しいのは、
- 自分の社会的な地位についてどう思っているか?
ってのも調べたとこです。イギリス全体の家庭とくらべて今の自分は中流ぐらいなのか? それともかなりの貧困層なのか? という点について”主観”ではどう思っているかをチェックしたわけです。
さて、そこで何がわかったかと言いますと、
- 18歳の時点で「自分の家族は他より貧しい」と評価した人は、そうでない兄弟姉妹よりも、抑うつ、不安、問題行動を体験する確率が大きかった
- 主観的な地位の判断は、客観的な社会経済的状態よりも、うつ病の発生率を予測するのに10倍優れ、不安を予測するのに3倍優れていた
だったそうです。要するに、もし同じぐらい貧しい家庭で育った兄弟がいたとしても、兄が「ウチは他より貧しい!」と思っていて、弟は「ウチは普通の家庭!」と思っていたら、かなりの確率で兄のほうがメンタルを病みやすいんだ、と。
にしても、実際に貧しいかどうかよりも主観を使った方が、10倍も正しくうつ病を予測できるってのはすごい結果っすね。もちろん現実の貧困は解決すべき問題ではあるものの、それが実際に悪影響を及ぼすかどうかには、本人の感じ方がかなり関わってるわけですな。
ちなみに、この研究では別の傾向も確認されていて、
- 12歳の時点では兄弟や姉妹のあいだで幸福度には違いが確認されず、思春期の後期になってから「主観的な判断」が重要になる
って傾向もあったそうです。ここらへんの現象は、多感な時期に入っていくと「ああ、ウチは貧しいんだな……」と気づき始めるから起きるんしょうねぇ。
これは、社会的地位の認識が、実際には、その地位に付随する身体的資源や機会よりも、青年の精神的健康にとってより重要であることを意味しますか?この研究は、これが事実であることを示す、今までで最も強い証拠である。
ちなみに、「主観的な認識が現実よりも重要である」って話は昔からありまして、実際に「自分の地位が低い」と考えている人ほど健康を壊しがちって証拠は何年も前から存在してたりします。世帯の収入や職業みたいな指標を調整しても、「自分の地位は低い」と考えている人は心と体を壊しがちなんだそうな。この現象は「ステータス・シンドローム」と呼ばれてまして、「社会的な地位」に対する考え方を変えれば、それなりに貧しさの悪影響を緩和できるのかもなーって感じですね。
研究チームいわく、
今回の結果を解釈する際には、以下の注意が必要であることを強調しておきたい。例えば、なんらかの犯罪で有罪判決を受けたり、メンタルの問題に苦しんだりした青少年は、その体験により自身の社会的な地位への見方が影響を受ける可能性がある。
また、青少年が自身の社会的な地位をどう考えているか?というポイントだけを対象にしていると、大きな不平等と完全に戦うことができなくなってしまう。富裕層との格差が拡大する現代で若者の社会的地位を向上させるためには、社会的要因と個人的要因の両方に焦点を当てた解決策が必要である。
とのことで、現実の貧困はもちろん認知面も改善して行こうぜ!って話が強調されておりました。まぁそれはそれで難しいんですが……。