「儀式」で目標を達成する力が激しく上がるぞ!という実験の話
拙著「ヤバい集中力」には、「なんでもいいから儀式を行うと集中力が上がるよー」って話を書いております。ざっくり引用しますと、
ロケットの打ち上げ前には必ず庭に木を植えるロシアの宇宙飛行士、赤いポロシャツでつねにトーナメントの最終日に挑むタイガーウッズ、午後に必ず3時間の散歩をしたチャールズ・ディケンズ----。
自分だけが実践する「マイ儀式」を守り抜く人は、どの世界にも少なからず存在するでしょう。
これをただの迷信と斬って捨てるのは簡単ですが、実は現代の科学では、マイ儀式の有用性が認められつつあります。
みたいになります。「モーニング・ルーチン」なんて言葉があるように、「朝起きたら顔を洗う→コーヒーを飲む→決まったサイトをチェックする」みたいに、普段の生活で一定の手順を守っている人は少なくないはず。このような、自分で決めた一定の手順を何度も反復することで、なぜだか自分の欲求を抑える能力が上がったりするんですよ。
でもって、上海財経大学の実験(R)も「マイ儀式」に関する話で、6つの実験を通して、「いかに儀式の力でセルフコントロール能力が上がるか?」を実証してくれてます。すべての実験を紹介すると長くなるんで、ざっくり全体の傾向をまとめると、
- 目の前の欲求に負けそうなタスクをいくつか用意する(「美味しそうなお菓子をガマンする」とか)。
- 参加者の半分はなにもしないまま誘惑に抵抗させ、残りの半分に「研究チームが開発したマイ儀式」をやってもらう。
- 儀式を行ったグループに、どのような変化が起きたのかを見る。
みたいになります。あらかじめ一定の決まった行動をくり返すことで、セルフコントロール能力がアップするかどうかをチェックしたわけっすね。各実験の参加者は、だいたい50人前後です。
ここで使われた「目の前の欲求に負けそうなタスク」がどんなものだったかと言うと、
- ニンジンとチョコレートのどちらかから、好きな方を選ぶ。
- スニッカーズか健康的だがマズいエナジーバーのどちらかを選ぶ。
- 友人との楽しい飲み会か、チャリティー団体の募金活動に出席する。
って感じです。基本的には、短期でメリットを得られるものか、長期じゃないとメリットを得られないものか、どちらかを選んでもらったわけですね。
すると、すべての実験は結果がほぼ同じで、儀式を行ったグループは、みんな長期的なメリットがある選択肢を選ぶ傾向が20%ぐらい強まったんだそうな。たんに無意味な儀式をやってるだけにしては、なかなかすごい効果だと言えましょう。
では、この実験で、どのような儀式が使われたのかと言いますと、以下のようになります。
儀式1.
- 右手でこぶしを作り、テーブルを2回コツコツ叩く。
- ビニール袋を1枚取り出し、自分の前に置く。
- 再び右手でテーブルを2回コツコツ叩く。
- 深呼吸をして、2秒間目を閉じる。
- 2枚目のビニール袋を取り出し、自分の前に置く。
- 立ち上がり、時計回りで部屋の中をぐるっと回る
- 左手で指を一回パチンと鳴らす。
- 左手の指を丸める。
- 右手を前後に4回振る。
- 3枚目のビニール袋を取り出し、自分の前に置く。
- 左手を3回握ったり閉じたりする。
- 1〜11までのステップを3回繰り返す。
儀式2.
- 正座する。
- 両手を膝の上に置く。
- 深呼吸をする。
- 目を閉じる。
- 頭をお辞儀するように下げる。
- そのまま、静かに10まで数える(1秒に1つずつ)
- 目を開ける。
どちらの儀式も何がなんだか意味が分かりませんが、とにかく決まった手順をくり返すのが大事らしい。これだけ謎の行動で、より健康的な食事ができたり、飲み会をがまんしてボランティアに参加できるようになるんだから不思議なもんです。
ちなみに、なんでこういった儀式によってセルフコントロール能力が上がるのかは、まだ諸説あったりするんですけど、この実験を見る限りでは、「儀式によって自分の行動を自分でコントロールできる感覚が強まるからでは?」って感じがしております。
というのも、この実験に参加した人たちはみんな、儀式が終わったあとで「規律を守って意志の力を発揮できる!」という気持ちが高まったと報告してるんですよ。つまり、何の意味もない行動だろうが、「決まった手順を正しく行った」という事実そのものが、私たちの意識をポジティブに変えてるんじゃないかってことですね。
まぁ詳しいメカニズムについては、さらなる検証が必要ですけど、「意味のない儀式を組み立てておくだけでも目標達成率が上がるかも?」ってのは、手軽な感じで良いっすね。自分でもなんか作るか……。