このブログを検索

「瞑想が躁病やうつ病の引き金になる可能性あり!」はどこまで本当か?

 
瞑想の副作用に関するご質問をいただきました。

毎回有益な記事ありがとうございます。いつも参考にさせて頂いております。 最近、自分も瞑想を始めたのですが こんな記事を見つけました。

【これは意外】瞑想が躁病やうつ病の引き金になる可能性ありと専門家が警鐘

suzukiさんはこの記事に関してどう思われますか? ご意見を聞かせてください

とのこと。この記事は、コヴェントリー大学のミゲル・フェリアス教授の意見をまとめたもので、瞑想やマインドフルネスには、ときにうつ病や精神病を引き起こす可能性があることを指摘したものです。



瞑想の悪影響を指摘するデータは意外とある
で、まずこの日本語の記事についてですけども、

事実、瞑想がブームとなっている米国で行われた調査では、6割の人がそのせいでパニックになったり、うつになったり、精神錯乱などの症状を訴えたそうだ。
同博士によると、経験の豊富さ関係なく、14人に1人が深刻な悪影響を受けているとも。

ってのはかなり誤解をまねく表現かと。


これだけ読むと「瞑想をすると60%の確率で悪影響が!」とか思っちゃいそうですが、そもそも元の記事で引用されてるデビッド・シャピロさんの論文(1)は、27人の参加者のうち2人に大きな副作用が出たって話でして、これだけで「14人に1人に深刻な悪影響!」と言われても、なんだかなぁ〜って話であります。


また、元の論文では、「ちょっと不安になった…」とか「なんか緊張感が増した…」といった軽度の不調も「悪影響」としてカウントしてまして、パニック・うつ・精神錯乱というほどのレベルではない感じ。これぐらいの副作用なら、わたしも普段からよく感じているところではあります。


というわけで、この記事については煽り過ぎな感がありますけども、いっぽうでは瞑想の副作用を指摘したデータも結構ありまして、

  • 20人を対象にした実験では、10週間の瞑想中に過去の嫌な記憶やトラウマが強化されてしまうケースがみられた(2,3)
  • 瞑想と心理療法の効果を調べたレビューでは、瞑想によって不快感をおぼえたり、罪悪感が増したり、躁病のような変化が出ることがわかった(4)
  • ブラウン大学のウィロビー・ブリットン博士の調査によれば、瞑想者のなかには「離人症」(現実感がなくなったように感じられる状態)に似た状態が起きるケースが少なくない(5)

などなど。ちょっと怖くなっちゃいますな。


ある程度の不快感は瞑想が上手くいってる証拠
こういった現象が起きる理由には諸説ありますが、瞑想で悪影響が出やすい人には、

  1. もともと心に深い傷を負っている人
  2. 何かを避けるために瞑想をやる人

の2パターンが多いように思います。


というのも、そもそも瞑想で不快感が出てくるのは普通のことでして、集中力が増して思考がしずまっていくほど、自分のなかで気になってた感情や記憶がガンガン浮かんでくるんですよ。


その結果、普段は忘れてた嫌な思い出や身体の痛みなんかが極端にクローズアップされまして、人によっては耐えがたい苦しみに感じられたりしちゃう。


で、さらに瞑想が進むと、今度はいままで思い出したこともない古い記憶がガンガン浮かんできまして、この段階を「苦しみ」ととらえる人も少なくないみたい。


わたしの場合も、最初は単に「リラックスできていいなー」って感じだったのが、やがて身体の左半身がマヒしたかのような不快感に襲われたり、過去の失敗がブワーッと浮かんできたせいで、あわてて何度か瞑想を打ち切ったことがありますからね。


というと怖そうですが、これは瞑想に限らず他のリラクゼーション法でも起きることでして、心理学の世界では「自律性解放現象」といった名前もついております。つまり、ある程度の不快感は瞑想が上手くいってる証拠でして、ほとんどの方は心配する必要はないかと。


ただし、もともと心にデカいトラウマを抱えている方などは、瞑想のせいで記憶の大波にさらわれちゃう可能性もありますんで、その場合はすぐに打ち切って専門家にかかるべき。重度の精神疾患を瞑想だけで治そうとするのは絶対にNGです。


何かを避けるために瞑想をするのは危険
さて、もう1つ瞑想でダメージを受けやすいのが、「何かを避けるために瞑想をやる人」です。不安感をなくしたいとか、怒りの感情を捨てたいといった目的で瞑想を行う場合ですね。


たとえば、瞑想中に不安感がわきあがってきて、あわてて「不安を感じている、不安を感じている…」と自分を客観視したまではいいものの、そこで焦りすぎて不安を押し込める形になってしまうパターン。


本来の瞑想では、わきあがった不安をながめつつ、何も手をくださずに感情が変わっていくのを見守るものなんですけども、自分でも気づかないうちに不安を抑圧しようとがんばっちゃうんですね。


これは、心理学の世界では「体験の回避」呼ばれる現象で、嫌な記憶や感覚を避けようとして、逆に不快感が増してしまったり、現実感がなくなったように感じられてしまうんですよ。


かくいうわたしも、瞑想の初期は知らぬ間に「体験の回避」が起きていたようで、妙にやる気がなくなったり、「なんにも意義を感じられない…」みたいな状態におちいったりしてました。


おそらく、わたしのように根が人見知りな方には、ハマりやすい罠なんじゃないかと。もちろん、瞑想を始めるモチベーションとして「不安を減らしたい!」と思うのはアリなんですが、瞑想中については「嫌なことを避けようとしてないか?」って点には注意を払ったほうがよいと思われます。


まとめ
以上の話をまとめますと、

  • もともと心に大きな傷を負っている人は瞑想は要注意
  • 何かを避けようとして瞑想をすると悪影響が出やすい
  • ただし、ある程度の不快感は瞑想では当たり前

といったところです。いずれにせよ、確かに瞑想の悪影響に関するデータもあるものの、瞑想のメリットと安全性を指摘する実験はそれ以上にありますんで、まずは不安にならなくてもいいかなーと思う次第です。


photo credit: JD Hancock via photopin cc
スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。