「体が痛い!」に対して外科手術はどこまで役に立つのか?のメタ分析がちょっと怖い件
「体の痛み」ってのは難しいもんです。あまりに身近な現象のわりには発症のメカニズムがよくわかってなくて、腰痛のような痛みについては「ほとんどメンタルが原因でしょ!」って見解が主流なぐらい。
ほかにもアレルギーやら感染症やらあらゆることが原因で起きるので、どうにも対策の判断が難しいんですよねぇ。
で、新しく出た論文(1)は「慢性痛は侵襲的な方法で治るか?」って問題をガッツリ調べてくれて有用でした。「侵襲的な方法」ってのは体を傷つけて行う治療法のことでして、この論文だと、
体になんらかの器具を挿入して行う治療法
を意味してます。つまり一般的な外科手術なんかがふくまれてて、逆に薬物や電子デバイスなんかは除外されてます。わたしの知人にも腰痛を治すためにヘルニアを取り除いた人がいますが、あれなんかも典型的な侵襲的な手法っすね。
で、これはメリーランド大学などの研究で、1959 〜 2013年のあいだに行われた慢性痛にかんする外科手術から25件のデータを抜き出し、2,000件の症例を分析した系統的レビューになっております。なかなか信頼できる内容になっててよろしいのではないかと。
ここで取り上げられた「慢性痛」の種類はと言いますと、
- 腰痛
- 関節炎
- 偏頭痛
- 腹痛
- 子宮内膜症
- 胆道痛
といったところ。明確な対処法が見つけにくい痛みが多いっすね。
さらに、どのような治療法が使われたかというと、
- 心臓カテーテル
- 開腹術
- 関節鏡下手術
- 内視鏡手術
- 腹腔鏡手術
- ラジオ波焼灼療法
みたいな感じ。わりと定番のテクニックがならんでますね。もちろん、いずれの研究でも「ニセの手術を行った患者」との比較をしていて、実験の質もいい感じになっております。
でもって、ここで調べられたポイントは、
- 痛みがちゃんと減るか?
- 痛みによる人生の質の低下は上がるか?
- 痛み止めの量は減るか?
- 副作用はないのか?
などになっております。一般的には「そりゃあ手術すれば治るでしょ?」ってイメージもあるかもですが、実際はまだこんな基本的なところを調べてるレベルだったりするわけですな。
では、その結論がどうなったかと言いますと、
- いまんとこ侵襲的な手術が慢性痛に効くことを示した証拠はほとんどない
- とくに腰痛とヒザ痛については、侵襲的な手法はオススメしかねる
- 副作用の発症率も、侵襲的な手法のほうが3倍も高い
とのこと。ここでは腰痛とヒザの痛みにだけメタ分析が行われていて、術後6か月の時点では、ニセの治療と改善率は変わらなかったそうな。いやー、これはヤバい結果っすね。
研究者いわく、
今回の調査は、医者、研究者、政策担当者たちに大きな疑問を投げかける結果となった。第一に、厳密なテストも行われていないのに、患者への負担が大きな手法を使うのを認めるべきか?という問題がある。
とのこと。慢性痛の手術ってのは、広く使われているわりには、まともなRCTがほとんどないらしい。こわっ!
まぁ細かくデータを見て行くと手術の効果にはかなりの個人差があって、一部には「激しく改善したよ!」ってケースも出てるんで、これだけですべてを否定するのは難しいところではあります。が、いずれにせよ多くの治療法には検証データがないは間違いないんで、そこらへんはじっくり医師と相談するしかないっすなぁ(腰痛や関節痛については外科手術の量も減ってきたみたいですが)。