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体に染み付いた恐怖をリセットするための「イメージトレーニング」の考え方

Awar

 

リスクを恐れずに勇気を出して行動する方法ってのはいくつかあるんですが、新しいデータ(1)は「恐怖を乗り越える方法はこれだ!」って内容になってておもしろかったんでメモ。

 

 

これはコロラド大学の実験で、68人の健康な男女が対象。まずは全員に、以下の方法で”恐怖心”を植えつけたんだそうな。

 

  1. ガラスを引っかく不快な音をガンガン聴かせる
  2. と同時に、結構な痛さの電気ショックをあたえる

 

これを何度かくり返すと、頭のなかで「不快な音」と「電気ショック」が結びついて、ガラスを引っかく音がちょっと鳴っただけでも汗がじっとりとにじむような恐怖反応が起きるんですな。パブロフの犬みたいなもんすね。

 

で、すっかり不快音が怖くなったところで、参加者を3つに分けます。

 

  1. 想像グループ:いやーな音をできるだけリアルに頭のなかで想像してもらう
  2. 現実グループ:実際にいやーな音を再び聞いてもらうが、電気ショックはあたえない
  3. 安静グループ:鳥の声や雨の音などの自然音を聞く

 

そのうえで、どのグループがもっとも恐怖心が消えたかをチェックしたんですな。恐怖心の計測は、参加者の主観的な感想や身体反応のほか、脳波計で神経の活動も調べております。

 

 

さて、これを見ると「自然音がよさげだな〜」と思う方もいらっしゃいましょう。なんせ当ブログでは日ごろから「自然音はいいよ!」みたいな話を書いてますからね。

 

 

しかし、その結果は「あえて嫌な音に触れた」グループの勝利。自然音と比較した場合、想像グループと現実グループのどちらともが、同じレベルで恐怖心が軽くなってたんだそうな。おもしろいですねぇ。

 

 

これは「消去学習」って現象にもとづいた実験で、昔から「不安症や恐怖の解決に役立つ!」と言われてきたんですな。どんなことをするかと言いますと、

 

  1. 怖いものに関係する「環境キュー」(特定の臭いとか音とか)に触れさせる
  2. しかし、本人が怖がっていることは発生しない

 

って感じのステップを何度かくり返すんですよ。たとえば、過去に自宅が燃えて火事が怖くなった人がいたとしたら、

 

  • 何かが焦げる音や炎がはぜる音を聞いてもらう

 

って作業を続けると、やがて脳が「怖そうな状況でも実際は何も起きないんだな」って事実を学び、やがて恐怖心が消えていくわけっすね。

 

 

ただし、火事のような特定の現象ならまだ簡単ですけど、

 

  • 戦争体験がトラウマになっている
  • 上司に怒鳴られた恐怖が体から去らない

 

みたいなケースだと、同じ手法が使いづらいわけです。戦争を再現するわけにもいきませんし、上司に怒ってもらうのも不可能ですからね。

 

 

ってことで、研究チームは「それなら想像だけでも同じ効果が出ないだろうか?」と考えまして、今回の実験を思いついた次第。研究者いわく、

 

 

想像グループも現実グループも、等しく恐怖刺激に対する身体的な反応が減っていた。

 

このデータからわかるのは、現実の体験を模した内面的な刺激が、実際に未来の状況に対する反応を変えるということだ。イメージを使ったセラピーは不安障害に効くし、精神的な活動は基本的な神経回路の活動に影響をあたえる。

 

 

 

とのこと。実験の条件が特殊なんでどこまで現実に適用できるかはわからんですが、頭のなかで恐怖に関する「環境キュー」を想像するだけでもちゃんと効果はあるっぽい。

 

 

といっても、急に「上司に怒られた状況をリアルに脳内で再現」などとやると、反すう思考にはまって逆効果な気もしますので、

 

  1. レベル1 上司がイラついてるといろをイメージ
  2. レベル2 上司が他人を怒ってるとこをイメージ

 

みたいに、少しずつ強度を上げていくのが良さそうにも思いますね。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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