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他人が怖い、人と関われない…見逃されてきた「クラスターAパーソナリティ障害」とは?

 

「パーソナリティ障害」と聞いて、皆さまどんなイメージが浮かぶでしょうか? おそらく多くの人は「境界性パーソナリティ障害」や「反社会性パーソナリティ障害」みたいに、“感情が激しいタイプ”が頭に浮かぶんじゃないかと。このような特性を持つ人は、メディアや映画にもたびたび登場しまして、ストーリーをかき回す役割を担ったりしますからね。

 

ところが、新しい研究(R)では、そうした目立つタイプの陰に隠れて、長年放置されてきた人たちがいるぞ!って結果になってて面白かったです。

 

この研究では「クラスターAパーソナリティ障害」と呼ばれる人々に焦点を当ててまして、これがどのようなものかと言いますと、DSM(アメリカ精神医学会の診断マニュアル)では、パーソナリティ障害を以下の3つに分類しております。

 

  • クラスターA:風変わりで奇妙、社会的に孤立しがち(今回の主役)
  • クラスターB:感情的で劇的、自己中心的(メディアによく出てくるやつ)
  • クラスターC:不安が強く、依存的、回避的(あまり目立たない)

 

でもって、クラスターAには、以下の3つのタイプが含まれてるんですよ。

 

  • 妄想性パーソナリティ障害(PPD)
    • 他人の言動を過剰に疑う
    • 常に「騙されるんじゃないか?」と警戒してる

 

  • シゾイドパーソナリティ障害(SZPD)
    • 感情に乏しく、孤独を好む
    • 「人とつながるのがめんどくさい」がデフォルト

 

  •  統合失調型パーソナリティ障害(SPD)
    • 思考が風変わりで、対人関係が極端に苦手
    • 妙なスピリチュアル理論を持ってることも多い

 

というわけで、どれも「なんか怖い人!」というよりは、生きるのが不器用でちょっと社会から浮いてる人たちを指してるんですよ。周囲から変人とか奇人とか呼ばれやすいタイプっすね。

 

で、このグループが、医療・研究の世界からスルーされやすいのは当然でしょう。クラスターAの人たちってのは基本的に静かに暮らしているので、

 

  • 感情をぶちまける
  • 他人を攻撃する
  • ドラマティックな事件を起こす

 

みたいな行動は起こさないんですよ。そのため、どうしても世間からの注目度は低くなりまして、臨床の現場でも「治療しづらい」「どう接したらいいかわからない」と後回しにされがちになるんすよね。

 

実際、今回のレビュー論文によると、クラスターAの治療法を調べたランダム化比較試験(RCT)は、たったの5本しかないそうな。一方でクラスターBの研究は数千本もありまして、注目度の差がすごいことになってますね。

 

そこで、セントジョン大学などの研究チームは、以下の2点に絞ってクラスターAの治療研究をレビューしたんですよ。

 

  • 治療を継続できるのか?(脱落せずに続けられるのか)
  • 治療は効果があるのか?(症状が軽くなるのか)

 

その結果、クラスターAに悩む患者ほとんどが最後まで治療を継続し、症状も有意に改善し、社会的な機能(仕事、人間関係など)も良くなる傾向が見られたんだそうな。要するに、クラスターAは注目されづらいけど、ちゃんと治療法はありますよってことですな。

 

しかも、クラスターAの人たちは、薬を使わず「心理療法オンリー」だけでもある程度の改善が見られたそうで、これは結構すごいことっすね。実験で使われた心理療法は2つでして、

 

  •  MERIT(メタ認知的内省・洞察療法):自分自身や他者について「内省」する力を鍛え、自分の思考や感情を客観的に見つめ、「自分ってなんでこう感じたんだろう?」を繰り返す方法。これによって「人との関係で何が起きてるのか、ちゃんと理解できるようになる」のを目指していくわけです。

 

  • CFT(コンパッション・フォーカスト・セラピー):自己批判を減らし、呼吸やイメージを使ってリラックスし、「自分や他人の苦しみにやさしさを向ける」スキルを磨く方法。これによって 「他人=怖い存在」という認知を、「他人=共感できる存在」へ書き換えていく。

 

みたいになります。どちらもガチで説明するとめっちゃ長くなるので、ここではこれぐらいでご勘弁ください。

 

で、この2つの療法で注目すべきが、どちらも「対人関係の安心感」をキーワードにしているところでしょう。クラスターAの人たちってのは、「人にどう思われるか不安」「誰も信用できない」って思ってることが多いので、

 

  • 話しかけられると「裏があるんじゃないか?」と身構える
  • 褒められても「バカにされてる?」と疑ってしまう
  • 仲良くなりたいけど、心を開けない

 

みたいなマインドが習慣になってるんですよ。そんな心のクセをほぐして、「人と一緒にいても大丈夫かも!」と思えるようにするのが、どちらの治療においても重要なポイントになってるんですな。もし自分が「クラスターA」だと思うのであれば、安心感にフォーカスしたトレーニングを組んでいくのが良いでしょうな。

 

というか、このレビューを読んでみたら、たいがい私も近いところがあるんで(特にシゾイドパーソナリティ障害)、もっとちゃんと安心感の醸成に取り組まないとなぁ……とか思ったりしました。まあクラスターAの人に限らず「社会的安全感」ってのは、現代を生きる人たちが悩みやすいテーマでして、

 

  • SNSで人と比べすぎてしまう
  • うわべだけのつながりに疲れてしまう
  • 自分の本音を話せる相手がいない

 

みたいな感覚がある方は、パーソナリティ障害かどうかにかかわらず、「人とつながっても大丈夫!」みたいな感覚を養うのが良さそう。その第一歩として、自分の思考や感情を見つめること、つまり、メタ認知セルフコンパッションの力を育てるのが大事って感じですな。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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