思ったほど「時間は心の傷を癒やしてくれない」らしいよ
「心の傷は時間がたてば癒える!」などと言います。これは多くの研究でも確認されてまして、どんなツラいことがあっても、ほとんどの人は時間とともに回復していくみたい。近ごろは「レジリエンス」とも呼ばれてますな。
従来のレジリエンス研究には不備があった
が、近ごろ出た論文(1)では、「時間が経ってもメンタルが回復しない人もいる!」って話になってて面白いです。
これはアリゾナ州立大の研究で、50,000人分の社会調査データを統計処理したもの。研究者によれば、これまでのレジリエンス研究は統計モデルに不備があったというんですな。
具体的にいうと、従来の研究ではデータを以下のようにわけてたんですね。
- レジリエンスが高いグループ:心の回復力が高く、みな同じようなペースで心の傷が治っていく
- レジリエンスが低いグループ:心の回復力が低く、みな同じようなペースで心の傷の治りが遅い
しかし、当然ながらレジリエンスが高いグループのなかでも、心の傷が癒えるペースは大幅に違うわけです。Aさんは離婚のストレスからの回復が早いけど、仕事をクビになった場合は持ち直すのに2年かかったりとか。
もうひとつ、従来のレジリエンス研究には、
- たいていの人は、人生の満足度が4〜8の間で変動する(10点満点)
って前提を統計モデルに組み込んでたんですよ。
ところが実際の傾向を見てみると、
- レジリエンスが高いグループ=人生の満足度が6〜8ポイントの間でずっと安定している
- レジリエンスが低いグループ=人生の満足度が2〜10ポイントの間で激しく移り変わる
って違いがあるんですね。この差が、従来の研究に大きな影響をあたえていたんじゃないか、と。なるほどねぇ。
「心の傷は時間がたてば癒える」という考え方は危険
以上の要素を考慮して計算し直すと、
- 従来の研究
- 配偶者の死に直面しても、75%の人は時間とともに立ち直れる!
- 離婚を経験しても、85%の人は時間とともに立ち直れる!
- 仕事をクビになっても、81%の人は時間とともに立ち直れる!
- 新しい結果
- 配偶者の死に直面した場合、時間で心の傷が癒えるのは27%だけ!
- 離婚を経験した場合、時間で心の傷が癒えるのは36%だけ!
- 仕事をクビになった場合、時間で心の傷が癒えるのは48%だけ!
って結果になったらしい。同じデータセットを使ってるのに、なかり数字に違いが出ております。統計怖い!
研究者いわく、
「心の傷は時間がたてば癒える」という考え方は危険だ。本当は外からの助けが必要かもしれない人を、見過ごす可能性を増やしてしまう。
悲劇的な体験をしたあと、その人にとって本当に必要な対処法が何かを、もっとよく考えるべきだろう。
とのこと。ここから学べることは、
- 自分にはレジリエンスがない!と落ち込まなくてもいい(ないほうが普通だから)
- 辛い体験をしたら時間が過ぎるのを待つのではなく、積極的な対処が必要かも
といったところでしょうか。もちろん超長い目で見れば「時間が解決する!」ってのは間違いじゃないんですが、放置プレイのままだとメンタルの悪化がムダに長引くぞって話です。気をつけねば。